TOP
>
栄養レシピ&コラム
>
栄養レシピ&コラム 2011年公開分
>
病原性大腸菌の恐怖

病原性大腸菌の恐怖

 ユッケによる焼肉店の大規模食中毒は、まだ記憶に新しいところです。今回の食中毒で原因となった大腸菌とは、どんな菌なのでしょうか?
*
 そもそも大腸菌は、私たちヒトをはじめ、動物の腸内に常に存在しています。ヒトの腸内にいる大腸菌は、ほとんど無害です。それより食物繊維の消化を助けたり、ヒトが作れないビタミンKを作り出すなど、私たちにとって大切な役割もしています。
*
 大腸菌は約180種類も存在し、そのいくつかは動物の腸などに常在します。私たちが口にして、下痢などの食中毒症状を起こすものを「病原性大腸菌」と総称し、その中で今回の食中毒の原因になった、O-111、O-157などのように重い症状を起こすものを、「腸管出血性大腸菌」と呼び、約40種類います。この「腸管出血性大腸菌」に感染すると、腹痛や下痢のほか、菌の作り出す毒素によって、血管が傷つけられて血便が出たり、毒素が腎臓に運ばれると溶血性尿毒症症候群(HUS)や、さらには脳症を起こし、死に至ることもあります。
*
 では、病原性大腸菌を持っている牛は、どうして食中毒にならないのでしょう?不思議に思って調べてみると・・・牛の腸管では、毒素が侵入するための受容体がほとんど働いておらず、毒素が細胞に取り込まれないとされます。むしろ、牛にとっては病気をやっつけるなど、良い面を持つ可能性もあると考えられているそうです。
*
 一方で大腸菌は75℃で1分以上加熱すれば死滅します。したがって、もし生肉に大腸菌が付いていたとしても、確実に加熱調理されれば、むやみに恐れる必要はありません。家庭では生肉を食べることはないと思いますが、加熱する場合でも、その取り扱いには次の点に注意しましょう。
*
【1】 生肉を切るまな板は別にする
まな板を2枚用意するか、表・裏で使い分けましょう。牛乳パックを広げて代用すると、そのまま処分できるので便利です。
*
【2】 まな板、包丁、ボウル、お皿などは洗剤で十分に洗う
生肉の処理に使った器具はすぐに洗いましょう。特に包丁の柄は洗い残しの多い箇所です。台ふきんやスポンジもきれいに洗ってしっかり乾燥を。時々は次亜塩素系漂白剤やアルコールなども使って、菌を残さないようにしましょう。
*
【3】 肉の中までしっかり加熱
ひき肉や味付き肉は、火が通りにくいので生焼けに注意。焼肉の時は、生肉をつかむ箸と、食べる箸は別にしましょう。しっかりと加熱しても箸に菌がついていれば意味がありません。
*
 そして、生肉をさわった手は、せっけんでよく洗いましょう。くれぐれも汚い手で他の食べ物に触れないように。特に梅雨から暑い夏は、もっとも細菌性食中毒の起きやすいシーズンになるため、注意が必要です。
*
 ところで、みなさんのエコバッグは清潔ですか?昨年、アメリカのNYタイムズに、買い物客のエコバッグを調査した結果、ほとんどに細菌が見つかったという記事が掲載されました。中には、カビや大腸菌が付着しているものもあったそうです。
*
 今や日本でもエコバッグは常識になってきました。ほとんどのスーパーでは、ポリ袋が備えてあるので、肉や魚、水もれしやすいものはポリ袋に入れてからエコバッグへ入れる方も多いと思います。それでも中は濡れたり、汚れがつきやすいもの。環境にやさしいエコバッグも汚染されていては、食中毒の原因になることもあり得ます。
*
 できれば食品と、それ以外の目的で使うエコバッグは別にする方がよいでしょう。さらには、肉・魚などと他の食品は別にするのが、より望ましいといえそうです。そして、週に1回程度は洗って乾燥させ、いつも清潔なエコバッグを使いたいですね。
*
 私たちにとっては悪者の「病原性大腸菌」も、牛にとっては共生の関係、何の罪もありません。大切な命をいただいている私たちが、間違った扱いをすれば、再び惨事を繰り返してしまうことを忘れてはならないと思います。