七つの味に込められた力
うどんや蕎麦にひとふり、みそ汁にひとふり、牛丼にひとふり・・・
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食卓にさりげなく登場する「七味唐辛子」は、ぴりっとするアクセントを与え、食欲を増す香りが広がります。ところで、七味唐辛子に入っているものをご存知ですか?唐辛子をはじめ、陳皮(ちんぴ)、ケシの実、胡麻、山椒、麻の実、青じそ、青海苔、しょうが、菜種…これらのスパイスがバランスよく調合されています。お気づきの方もいらっしゃるとは思いますが、七味唐辛子は必ずしも7つの香辛料からできているとは限りません。
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七味唐辛子は江戸時代に“からしや徳右衛門さん”が病気を治す薬(当時は漢方薬)を食事に取り入れることはできないかと考えたのがはじまりです。昔は、材料を個々に置いておき、お客さんのリクエストに応じて調合しながら、材料ひとつひとつを説明してくれるサービス特典付きで、自分だけのオリジナル七味唐辛子が出来上がるスタイルになっていました。
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江戸の薬研堀で生まれた七味唐辛子は関西にも広がり、関東では蕎麦(そば)に、関西ではうどんに合うように異なる調合で流行しました。蕎麦はうどんに比べつゆが濃い味なので、関東の七味唐辛子はより辛く、関西は辛味とともに香りも楽しんでいたようです。
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七味唐辛子に使われている食材にどんな効果があるかというと…
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・唐辛子
辛味成分カプサイシンが胃液の分泌を促し、消化吸収を助け、食欲増進効果があります。また、血行促進作用もあるので、体を温め、肥満防止効果も期待できます。さらに、赤色はカロテンなので抗酸化作用もあります。
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・陳皮
みかんの皮を乾燥させたもので、中国の香辛料のひとつ。みかんの皮には、毛細血管を強くするビタミンPが多く含まれています。動脈硬化予防にはうってつけの一品。
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・ケシの実
アンパンの上によくかかっているのをよく見かけます。未熟な果実はアヘンやモルヒネの原料にもなるため、麻薬取締法で一般栽培は禁止されています。脂肪分を多く含み、カルシウムなどのミネラルも豊富です。精神安定や鎮痛効果が期待されます。
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・胡麻
良質なたん白質を含み、ビタミン、ミネラル類も豊富な栄養品。話題になったセサミンは、抗酸化作用に優れ、動脈硬化予防や肝機能の改善にも効果があります。
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・山椒
うなぎの蒲焼の薬味としてしばし登場する香辛料。辛み成分のサンショオールは、胃腸の働きを活発にしてくれ、食欲増進作用があります。
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・麻の実
七味唐辛子の中で一番大きい粒が麻の実です。がんもどきやいなりずしに入っていることもあります。さわやかの香りとかすかな辛みにプチプチとした食感が特徴的。しかし、若い葉は大麻取締法によって一般の栽培は禁止されています。亜鉛が入っているので、皮膚炎の予防になります。
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・しそ
ビタミン・ミネラルが多い香味野菜のひとつ。とくにカロテンが多く積極的にとりたい野菜です。香り成分のペリルアルデヒドは、抗酸化作用と防腐作用があります。
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・のり
EPAを含むため、血流促進作用があります。
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・しょうが
辛味成分のジンゲロールは血流を促進してくれるので、身体をあたためてくれる作用があります。抗菌作用があるので風邪予防に効果的です。また抗酸化作用もあるのでガン予防が期待されます。
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・菜種
オレイン酸やリノレン酸という脂肪分が多く含まれています。この脂肪分は血中コレステロールの上昇が少なく、酸化しにくいため健康によい脂肪分とされています。
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ひとつひとつの食材のもつ効果が複数組み合わさって、食欲を増す香りとともに病気を予防してくれる魔法の粉なのです。といっても、少量ずつの摂取になると、全ての効果が得られるとは限りません。食材の組み合わせにもよりますが、代表的な組み合わせによる七味唐辛子の効果は、肥満予防・風邪予防、抗酸化作用が期待されます。
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ただし、香辛料というのは料理の美味しさを引き立たせるものであって、あくまで多量に食べるものではありません。辛いものを食べ過ぎると味覚がマヒすることもあるので、脳が辛味を感じ、香りを認識できる程度にふりかけることが大切です。
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七つの味に込められた健康を願う思いは現代まで受け継がれ、七味唐辛子は日本の代表的な香辛料になったのです。