お雑煮に願いを込めて
お正月も過ぎ、七草、鏡開き、小正月そして大寒を迎え、一年で最も寒い時期となりました。お正月は、おせち料理やごちそうをたくさん召し上がられたことと思いますが、なんと言ってもお正月に欠かせないのが雑煮(ぞうに)ですね。
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雑煮はもともと、年神様にお供えした餅を下ろしていただくことで、力を授かると考えられていました。過ぎた年の無事に感謝し、新年の家内安全や豊作を願っていただきます。
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地方によって、いろいろ特色のある雑煮。主役の餅は、関西では丸く円満にと縁起の良い丸餅が主流です。関東や寒い地方では角餅が多く見られます。人の多かった江戸では、ひとつずつ手で丸める餅より、切り出して数多く作れる角餅が便利だったようです。
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汁は醤油のすまし仕立ての他に赤味噌仕立て、京都などでは白味噌仕立て、出雲地方や能登半島では、小豆汁といった変わったものもあります。具はサケ、イクラ、ブリ、カキ、エビなどの海の幸、ダイコン、ニンジン、青菜、サトイモ、キノコなどの山の幸、その土地でとれるものが入ります。
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当病院のある北広島町は山間部にも関わらずハマグリを入れるのが主流で、その他に豆腐と青ネギ、すまし仕立てにゆでた丸餅という家が多いようです。珍しい雑煮では、香川県讃岐地方の白味噌仕立ての汁にあんこの入った餅と野菜が入るものも。また、岩手県三陸海岸では、しょうゆ味の汁に焼いた角餅を入れ、この角餅をくるみのタレにつけて食べるそう。みなさんの故郷はどんな雑煮でしょうか?
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ところで、みなさんは雑煮の餅をいくつ食べましたか?雑煮以外にもきな粉餅や磯辺巻き、ぜんざいなど餅を食べることの多い時です。そこで気になるのが餅のカロリー。ご飯と比較してみると…
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・ご飯100g当たり168kcal(炭水化物37g)
・餅100g当たり235kcal(炭水化物50g)
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餅はご飯に比べて水分量が少なく、こねられて密度が高いため同量ではカロリーは約1.4倍高くなります。スーパーなどで市販されている切り餅は、角餅が1個約50g(118kcal)、丸餅が1個約35g(82kcal)。ご飯は茶碗1杯160g(270kcal)位ですので、角餅3個または丸餅4個以上食べるとカロリーオーバーといえます。
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米に含まれるデンプンは、アミロースとアミロペクチンから成っています。うるち米はその割合がおよそ2:8に対して、もち米はほぼ100%がアミロペクチンです。このアミロペクチンが餅の粘りのもと、加熱して練りあげることで、あのモチモチ感とのびが生まれます。消化率は、ご飯と同様100%と消化はよいものの、アミロペクチンの粘りが強いために、消化酵素がなかなか入り込めず、デンプンの消化に時間がかかります。胃にもたれる感じがするのはこのためで、言い換えれば腹持ちがよいということになりますが、アミロペクチンはアミロースに比べ、血糖値を急激に上げてしまう特性があります。
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そこでおすすめの餅の食べ方を紹介します。餅のような炭水化物は、たんぱく質や食物せんいをいっしょに摂ることで血糖値の上昇をゆるやかにします。とり肉や魚介類、レンコンやゴボウ、ダイコンなどの根菜類、青菜、ワカメなどの海草類といっしょに具だくさんの雑煮に仕上げるとよいでしょう。また、炭水化物の代謝に欠かせないビタミンB1を多く含む豚肉や大豆をいっしょに食べるとさらに効果的。大豆を挽いたきな粉はおすすめ食材です。
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“からみ餅”は、大根おろしと醤油をからめたものですが、大根おろしにはアミラーゼという、デンプン分解酵素が豊富に含まれ、消化を助けるので餅といっしょに食べるのは利にかなっています。醤油の代わりにポン酢と青ネギを加えるのもおすすめです。
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当病院ではソフト食の研究を重ねた末、喉に詰まりにくい餅を作ることに成功し、このお正月に初めて患者さんに雑煮を提供しました。米粉に水と増粘剤を加えたこの餅は、粘りやのびはなく、食感は柔らかで歯茎で押しつぶすことができます。もちろん外観や味は一般の餅とほとんど変わりません。患者さんにお正月の雰囲気を少しでも味わっていただけたのではないかと思っています。
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お正月の「正」という言葉には「あらためて正す」「初め」などの意味があるそうです。古い一年を終えて、新しい一年をあらためて始める最初の月です。気持ちも新たに、この一年が穏やかで、みなさんにとって良い年でありますように。