いい塩梅(あんばい)で
梅雨入りし、じめじめとうっとうしい季節になりました。梅の雨と書いて“つゆ”と呼ぶように、梅の実が熟れる頃でもあります。青梅の色や香りは、うっとうしい梅雨時にさわやかさをもたらしてくれ、そろそろ今年も梅干しを漬ける時期がやってきたと感じさせます。
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梅干しは、日本の代表的な伝統食であり、古くから日本人にとって身近な健康食品としても重宝されてきました。今回は梅干しに焦点を当て、改めてその効能についてご紹介したいと思います。
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まず、梅干しの特徴である酸っぱさ。酸味の正体は『クエン酸』です。クエン酸は、レモンなどのかんきつ類にも含まれています。じつは梅の実にはビタミンやミネラルはあまり含まれていません。梅干しにすることによって、クエン酸などの有機酸が増えてきます。このクエン酸に多くの効能があるのです。
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「日の丸弁当」と呼ばれるように、お弁当やおむすびなどの中に梅干しを入れると、ごはんがいたみにくくなることはよく知られています。これはクエン酸のもつ強い殺菌力によって、食べ物を腐らせる菌の繁殖が抑えられるためです。ごはんを炊くときに、梅干しを1個入れて一緒に炊いても同様の効果が期待できます。とくにこれから暑くなり、食中毒に気をつけたい時期のお弁当には、梅干しは欠かせません。
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また、クエン酸は体の中での脂質や炭水化物の代謝を高めてくれます。私たちは、食事によって取り入れた脂質や炭水化物を、エネルギーへと変化させることによって体を動かしています。しかし、この過程で体内には「乳酸」と呼ばれる物質が発生します。乳酸が血液中にたまってくると、体のだるさや疲労感の原因となってしまいます。クエン酸は、脂質や炭水化物がエネルギーに変化するための手助けをし、余分な乳酸が生じるのを防いでくれます。梅干しが夏バテに効く、疲労回復に効果があると言われるのは、こうした効能があるからなのです。
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さらに、クエン酸は骨粗しょう症予防に役立つカルシウムや鉄の吸収率を高めてくれます。カルシウムや鉄が多く含まれる食品とともに梅干しを食べることで、クエン酸がカルシウムや鉄と結びつき、腸内での吸収をスムーズにしてくれます。(ちなみにカルシウムは牛乳・乳製品、小魚、緑黄色野菜、大豆食品などに、鉄はレバー、赤身の食肉と魚肉、シジミ、アサリ、ひじきなどに多く含まれています。)
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梅干しを漬けるときには赤じそを使いますが、赤じそにはシアニンという色素が含まれています。このシアニンと、塩漬けにされた青梅の酸性の漬け汁(梅酢)が合わさると赤色に変化し、あの梅干しの色が作られます。
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色づけ用の赤じそと、料理にもよく使われる青じそ。ともに梅干しと同様、殺菌・防腐効果があります。青じそがお刺身のつまとして使用されているのは、彩りをよくするためだけでなく、お刺身をいたみにくくするために非常に理にかなった組み合わせでもあるのです。さらに赤じその色素のポリフェノールには、アレルギー症状を抑える効能があることも分かってきました。
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ところでみなさんは、三島食品の赤しそふりかけ“ゆかり”をご存知でしょうか?広島県では、“ゆかり”と言えば赤じそふりかけと答えるくらい、とてもなじみのあるものです。当病院のある広島県北広島町には、三島食品の「ふりかけ資料館」などもあり、この時期には原料の赤じそを栽培する、一面鮮やかな赤紫色の畑をのぞむことができます。
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さて、梅干しが数年、数十年にわたって保存できるのは、梅干しを漬けるときに使用する「塩」に殺菌作用があるためです。『日本人の食事摂取基準(2010年版)』では、動脈硬化や高血圧などの生活習慣病予防のために、一日の食塩摂取量を成人男性で9.0g未満、女性では7.5g未満とすることを推奨しています。
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一般的な塩漬けの梅干し1個(約10g)には、約2.0gの食塩が含まれています。梅干し1個を食べることによって、一日に摂ってもよい食塩量のおよそ4分の1にもなるのです。塩は梅干しのうま味を引き出し、保存性も高める重要な役割がありますが、食べすぎには注意したいところです。
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ちょうど良い加減のことを「いいあんばい」といいますが、「あんばい」は漢字で「塩梅」と書きます。梅干しは多くの優れた効能をもつ日本のすばらしい伝統食です。体のことを考えて、「いい塩梅」でこれからも付き合っていきたいものです。