栗よりうまい十三里
食欲の秋、実りの秋です。この時期に旬を迎え、とくにおいしくなるのがさつまいも。ほくほくの焼きいもを食べると、しみじみと秋を感じます。近年では新たな品種も登場し、その楽しみ方も広がっています。
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さつまいもは中央アメリカ原産で、紀元前から栽培されていたことがわかっています。日本でのさつまいもの歴史はおよそ400年。沖縄本島の野國村(現・嘉手納町)に伝わり、江戸時代に薩摩藩によって全国に広められ、栽培が始まりました。その名残で現在も「さつま」いもと呼ばれています。もともといもが好きだった日本人は、当時から蒸しいも、焼きいも、乾燥いもなどとして食べ、焼きいも屋が繁盛したそうです。さつまいもはやせた土地でも育ちやすく、江戸時代の大飢饉や戦中の食糧難を救ってきました。
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さつまいもを栄養面から見ると、その成分は米や麦などの穀類と同様に炭水化物が主で、たんぱく質や脂質は少なめです。炭水化物は主にでんぷんで、加熱すると甘味が増しますが、カロリーはごはんよりもやや控えめ。食物繊維が豊富で、ミネラルやビタミンも含まれます。さつまいもの皮の紫色はアントシアニンというポリフェノールの一種で、抗酸化物質に富み、生活習慣病や老化予防に効果があるといわれています。また、さつまいもを切ったときに出るミルクのような白い液はヤラピン(ヤラッパ樹脂)と呼ばれ、便を柔らかくして便通をよくする働きがあります。
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えぐ味や青臭さが好まれず、食用とされにくかったさつまいもの葉も、改良が進み、食べやすい品種「すいおう」が開発されました。さつまいもの葉は、ほうれん草などの緑黄色野菜と似ており、ビタミン、ミネラル、食物繊維が豊富です。とくにカロテンは、にんじんに匹敵するほど含まれ、鉄分などのミネラル類は緑黄色野菜のなかでもトップレベル。さつまいもは皮にも茎にも葉にも栄養が詰まった、まさに捨てるところのない優れた食品です。
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そんなさつまいもですが、みなさんはどのようにして食べるのが好きですか?世界のさつまいも事情を探ると、その調理法も食べ方もさまざまです。
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中国ではさつまいもをおかゆに入れて蒸したり、油で揚げる方法が一般的です。韓国や上海では、つぼ焼きと呼ばれる焼きいもの屋台や引き売りがあるそうです。日本の石焼き芋の屋台に近いのかもしれません。台湾では、屋台や引き売りは今はなくなり、スーパーマーケットやコンビニでの販売が増えているそうです。また、アメリカでは惣菜の具として、あるいは油で揚げてチップスといった形で食べられています。
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日本では、従来はさつまいもの「ほくほく」や「しっとり」とした食感が好まれていましたが、最近ではスイートポテトやモンブランなどのスイーツも人気です。また種子島産の安納いもはさつまいもの中でもとくに糖度が高く、焼き芋にすると蜜が出るほどねっとりとして甘味が強いのが特長で、プリンにしたり、冷凍にしてアイスクリームのようにして食べるなど、注目が集まっています。
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スイーツとしてもおいしいですが、もちろんみそ汁の具にしたりさつまいもご飯にしても、食卓を秋らしくしてくれます。また肉とも相性がいいので、ハンバーグに入れたり、牛肉や豚肉と甘辛く炒めでもおいしくいただけるのでおすすめです。
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しかし、さつまいもは糖質が多く血糖値を上げやすいので、血糖値が気になる方、糖尿病の方にとっては食べ過ぎに注意したい食材でもあります。そんな方は、さつまいもを食べるときに野菜類、海藻類、牛乳やヨーグルトなどの乳製品、また酢の物などの酢を使った料理を一緒に摂ると血糖値の上昇が緩やかになるので、上手に組み合わせましょう。
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最後に、家庭で焼きいもをおいしく作るコツをご紹介します。
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さつまいもの甘味のもとになるのは、でんぷんです。でんぷんそのものは甘くなく、さつまいもに含まれるでんぷん分解酵素のアミラーゼによって糖質に変わることで、甘味が強くなります。この酵素は、加熱する過程で活発になり、さつまいもを甘くしてくれます。
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さつまいもの甘味を最大限に引き出すポイントは、じっくりゆっくり加熱すること。電子レンジなどで急激に温度を上げて火を通してしまうと、65~85℃という酵素にとって働きやすい温度帯が少なくなってしまいます。家庭ではオーブンを使い、250℃で30分(さつまいもの大きさにもよります)ほどじっくりと焼くことで、甘くておいしい焼きいもになります。ぜひ一度お試しください。
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いまが旬のさつまいも。新しい食べ方も取り入れながら、楽しんでおいしく味わいましょう。