花を食べる果実
暑かった夏も過ぎ、涼しい風にほっとする季節になりました。今年も庭のいちじくの木に実がなり、日に日に赤みが増し、秋の到来を告げてくれます。いちじくは地味だけど、どこか懐かしい味のする果実です。
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いちじくはアラビア半島付近が原産のクワ科の植物で、古代エジプトの壁画に描かれており、旧約聖書の中にも登場する古くから栽培されてきた果樹で、アダムとイブが裸を隠すために身に着けていたのもいちじくの葉です。はるか6000年前には栽培されていたとみられ、ヨーロッパからペルシャ、中国へと伝わり、日本には江戸時代に中国からもたらされました。
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ふつう果実は花のあとに実をつけますが、いちじくは春から初秋にかけて実の中に小さな花をつけます。いちじくを半分に切ると赤い粒粒がたくさん詰まっていますが、その一粒ずつが花(花嚢)なのです。私達が実と思って食べているのは花ということになります。外側から花が見えず、花が無いように見えるため、「無花果」という漢字があてられました。いちじくの名前の由来は、毎日ひとつずつ実が熟す、あるいはひと月で実が熟すため“一熟”からいちじくとなった説があるそうです。いちじくは別名も多く、南蛮柿、唐柿、文仙果などとも呼ばれます。
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いちじくは古くから不老長寿の果実とされてきました。当初は実を食べるよりも、茎や葉の薬効が高いとされ、葉を煎じたり、外用薬として使われていました。後に実を食べるようになったようです。いちじくの実には食物せんいのペクチンが豊富で、便秘予防や整腸作用に効果があり、コレステロール値や血糖値の上昇抑制にも役立ちます。また血圧を下げる効果のあるカリウムを含んでいます。
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葉や茎の切り口から出る白い液は「フィシン」というたんぱく質分解酵素をはじめ、糖質や脂質の分解酵素が含まれています。フィシンは実にも含まれており消化を促進させるので、肉料理と一緒に食べたり、食後のデザートにおすすめです。またお酒を飲んだあとに食べると、二日酔いになりにくいといわれます。
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いちじくを買うときは、ふっくらと果皮に張りがあり傷のないものを、皮の赤みが強い方が甘味があります。おしり(果頂部)が割れていないものが、見栄えがよく商品としては最上にされますが、少し開いているくらいが食べ頃、割れ過ぎは熟し過ぎです。逆に未熟なものを食べると胃を痛めるので注意しましょう。いちじくは日持ちしないので、早めに食べるのがよいですが、皮をむいて冷凍することもできます。食べるときは自然解凍で。たくさんあって食べきれないときは、ジャムやコンポートにするのをおすすめします。
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いちじくは糖度が高く、ペクチンが多いのでジャムにはもってこいの果実です。ジャム作りでは、果実の30~40%の砂糖を加えますが、いちじくは20%程度の低糖でも美味しく、短時間でとろみがつくので作りやすいジャムです。皮をむいて4~6等分に切り、砂糖をまぶして30分おき、中火でアクを取りながら煮詰めていきます。冷めると固くなるのでゆるめに仕上げ、最後にレモン汁を加えるとすっきりとした甘さになり、色鮮やかに出来上がります。好みでブランデーなどを加えてもよいでしょう。
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次にコンポートの作り方を簡単に紹介します。水400mlと砂糖大さじ5を煮立て、皮をむいたいちじく5個を入れます。クッキングシートで紙ぶたをし、弱火で10~15分煮て、煮汁に漬けたまま冷まし、味を含ませます。水の半量から全量を赤ワインや白ワインに代えれば大人の味に。砂糖は好みで加減してください。よく冷やして、そのままでもアイスクリームを添えても、おいしく召し上がれます。ジャムもコンポートも、いちじくを皮つきのままで使ってもかまいません。たくさんのいちじくの皮をむくときは、フィシンによって指先が痛くなることがあるので手袋などをするとよいでしょう。
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私たちには馴染みが薄いですが、世界的にみるといちじくの90%が乾燥され、ドライフルーツとして食べられています。いちじくはバナナやりんごのようにいつでも食べられる果物ではありません。ぜひ旬のこの時期に美味しさを味わってみませんか。