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栄養レシピ&コラム 2018年公開分
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静かなブーム 煎り酒

静かなブーム 煎り酒

 煎り酒(いりざけ)をご存知ですか?室町時代に考えられたと言われ、江戸時代には広く使われていた調味料です。日本酒に梅干しを加えて煮詰めたものが原型で、昆布やかつお節を加えて風味をよくしたりします。ただ当時は保存性があまりなかったため、しょうゆが普及してくると次第に姿を消していきました。料亭などの和食には現在も使われていますが、一般家庭ではほぼ見ることはなくなっていました。ところが今ふたたび注目され、静かなブームになっているようです。
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 煎り酒といっても煮切っているのでアルコール分はとんでいます。梅干しのまろやかな塩味と酸味に加えて、日本酒とだしの旨味を併せ持ち、しょうゆやポン酢のように強い味ではありません。しょうゆに比べると塩分は約半分ですが、しっかりとした旨味と、ほんのり酸味があるため、塩分の薄さはそれほど感じません。むしろまろやかでさっぱりした味は、素材の味や香りを生かしてくれます。
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 刺し身を煎り酒につけて食べてみると、適度な塩気がありつつも、刺し身の味がしっかりとわかり、しかも生魚特有の臭みは抑えられて、とても美味しかったです。特にタイなどの白身魚やサーモン、アジ、帆立などにもよく合います。ほうれん草は茹でて、煎り酒で和えるだけで美味しい浸しに、冷や奴、卵かけご飯など、しょうゆに代えてかけてみると、煎り酒の主張し過ぎない味と、素材本来の味がよくわかります。以来、我が家の食卓には欠かせなくなりました。
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 かけるだけでなく、煮物や炒め物にも調味料としておすすめです。煮物は砂糖を加えず、煎り酒と水だけで味付けすればさっぱりとした煮物に。炒め物も少しの油と煎り酒で十分美味しく仕上がります。また臭みを抑える効果があるので、魚や肉の下味に使うとよいです。水で割ってなべ物のつゆとして、またこれからの季節には、そうめんや冷しゃぶのつけダレなどにも。煎り酒にごま油や酢、辛子、こしょう、練りごまを加えるなど、アレンジも広がり万能調味料として活躍してくれるでしょう。
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 日本酒、梅干し、昆布、かつお節とシンプルな材料なので、うちでも作ることができます。1合の日本酒に、梅干し中2~3個をつぶしたもの、だし昆布5cm角1枚を加えて中火にかけます。沸騰したらかつお節を軽くひと握り加えて、ごく弱火で半量程度まで煮詰めます。冷めたらキッチンペーパーなどで濾せば出来上がり。冷蔵庫で2週間ほど保存できます。梅干しの塩分や好みで量は加減してください。日本酒は純米酒を使用、醸造用アルコールの入ったものでは美味しくできません。梅干しは砂糖やはちみつ、添加物の入らない、塩と赤紫蘇のみで漬けたものを、できれば昔ながらのしょっぱい梅干しの方が、より美味しくできるようです。加熱するときは、日本酒に火がつかないように気をつけて、ごく弱火でゆっくり煮詰めましょう。
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 それほど多くはありませんが、いくつかの煎り酒が販売されています。メーカーによって、魚醤や梅酢、みりんを加えるなど、それぞれ特徴があるので、好みを見つけるのも楽しそうです。味はもちろんのこと、減塩の観点から、もっと注目されてもよい調味料ではないでしょうか。日本古来の味を残していきたいですね。