本当の美味しさとは?
新しい年が始まりました。皆さんお正月には美味しいものを召し上がったことでしょう。今は普段から美味しい食べ物がたくさんあるので、おせち料理など特別な日の食事は、次第に食べなくなっているように思います。日本の時候の行事にまつわる食事や四季折々の食材をこれからも大切にしていきたいですね。ところで「美味しい」とよく言いますが、美味しいとはどんな味なのでしょうか。
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私たちは食べ物の味を舌や喉の奥に広がる味蕾(みらい)という器官で感じ取り、味覚神経を介して脳に伝えられることで、甘いや酸っぱい、美味しい、まずいといった味の判断をしています。味覚には甘味、旨味、塩味、酸味、苦味の5つの基本味があります。辛味は痛みとして捉えられる触覚に近いもので、基本の味には入らないとされています。
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甘味は、主としてエネルギー源となる糖類で、味わったときに美味しい味として認識されます。旨味は、アミノ酸(たんぱく質)で、身体の筋肉や臓器、皮膚、毛髪などを作る役割をし、これも美味しい味として伝わります。塩味は、食塩など体液のバランスを保つために必要なミネラルの供給源として、体液の塩分濃度1%に近い濃さでは、美味しい味として捉えられますが、高濃度だといやな味に感じます。
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一方、酸味と苦味はまずい味として認識されます。酸味は腐敗物、苦味は毒物として判断、食べてはいけない味なのです。食べ物を口にしたとき、味を感じる順序は、まず苦味と酸味で、毒物や腐っていないかを判断、続いて塩味、旨味、甘味の順に感じて、「好ましい味=美味しい食べ物」となります。小さい子供が苦味や酸味を嫌がるのは本能であり、生まれながらにして危険な食べ物を選別しているといえます。その後、いろいろな食べ物を食べ、苦味や酸味、さらに辛味や渋味なども加わった複合的な味を経験することで、危険なものを避けながら、美味しく感じる幅が広がっていきます。コーヒーや緑茶、ビールの苦味、酢の物などの酸っぱい味が美味しいと感じたのは、いくつの頃だったでしょうか。
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さらに美味しさには、味覚以外の感覚も大きく関わっています。色合いや見た目の視覚、調理をする音や噛む音などの聴覚、歯ごたえや舌ざわりの触覚、香ばしい香りや甘い匂いなどの嗅覚、五感を研ぎ澄まして多角的に味わいます。美味しく感じる要素としては、味覚よりも視覚や聴覚の方が大きいそうです。
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私たちはこれまで自然界から多くの食べ物の恩恵を受けてきました。本来、自然界に甘味の強い食べ物は少なく、甘味に対してとても敏感でした。ところが、糖度の高い砂糖や人工甘味料を摂取するようになり、甘味への感度が鈍くなり、より甘いものを求めるようになってきています。旨味も加工品などの普及により、本来の食べ物に含まれる以上に、旨味成分が添加されるようになりました。生きるためのエネルギー源やたんぱく質源だったものが、さらに美味しい味を求める欲求や、嗜好性が強くなり、健康への弊害が危惧されています。食べ物があふれかえる現在、本当の美味しい味を見失わないようにしたいですね。
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高齢になると、噛むことや飲み込む機能が低下し、食事を細かく刻む、またはペースト状にすることが必要になってきます。当病院でも多くの刻み食やペースト食を調理しています。味はもちろん、見た目や食感、香りなどもできる限り工夫をし、美味しく召し上がっていただけるよう、日々研究をしています。本年もよろしくお願いいたします。